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Doctor Mからのメッセージ#039                      (2004.11)
                    セリエ教授のストレス学説


 最近はストレスがいろんな病気の元であるとか、癌の遠因か誘因かの役割を果たすなどの情報が氾濫して、関心が持たれているように思います。私自身、学生時代からずっと興味を持ってきた「ストレス学説」の成り立ちについて書いてみます。

 1936年頃からセリエ博士は卵胞ホルモン(エストロゲン)や黄体ホルモン以外の第三の卵巣ホルモンを見つけようとしていた。卵巣のエキスを卵巣や脳下垂体を摘出したネズミに注射すると、「副腎皮質の肥大」「胸腺やリンパ組織の萎縮」「胃十二指腸の出血性潰瘍」という反応群(症候群)が生じた。卵巣エキスの中にそういう変化を引き起こす未知の因子があるのだと信じて実験を進めた。ところがその後、腎臓や皮膚のエキスを注射しても同じことが起こり、訳が判らなくなった。試みに組織障害性の強いホルマリンの希釈液を注射すると、エキスよりももっと強い程度の症候群が生じて、大いに落胆した。しかし数日後、「いろんな障害に対して身体が決まりきった症候群を示すこと、それ自体が研究に値するのではないか」ということに気付いた。結局、未知の性ホルモンの発見よりも重大な学説の創造につながった。その後、用語の曖昧さを避けるために、「ストレス状態」を起こす要因を「ストレッサー」(訳語:ストレス作因)と呼ぶことにした。ただし、学説というのはあくまでも「説」ですが。

 セリエの「ストレス」は日常会話や精神領域で用いるよりもっと幅の広い用語です。

 セリエ教授の提唱したストレス学説というのは、適当なストレス作因が持続的に身体に加わると、一連の非特異的な定型的な反応が起こるということです。それを全身適応症候群と呼ぶので、ストレス学説は全身適応症候群学説とも言います。その症候群の一連の動きは、先ず「警告反応期」(最初の「ショック相」とそれに引き続く「反ショック相」とに区分される)、次に「抵抗期」、最後に「疲弊期」という三つの時期に分かれます。疲弊期が回復しないと個体の死になります。ストレス作因が物凄く強烈なら、警告期から一気に死に至るでしょう。ストレス作因が弱かったり一時的であったら、警告反応期か抵抗期までを経過して回復に向かうでしょう。重要なことは、この反応に責任を負っているのが「適応ホルモン」と銘打った種々のホルモンと自律神経機能であり、中でも抵抗期の抵抗力の維持に大きい役割を果たす副腎皮質ホルモン(副腎皮質ステロイド)が最も重要というものです。他にも警告期における超急性防御反応的な作用をして、交感神経とともに反ショック相の主役となるアドレナリン(発見者の高峰譲吉博士による命名)という副腎髄質ホルモンも重要です。

  新たに加わる別のストレス作因に対する抵抗力について、反ショック相では強化され、抵抗期では低下し(元のストレス作因に対しては抵抗力を維持しているが)、疲弊期では損なわれるということです。 持続するストレス状態が病気の元という理論的根拠でしょうか。ストレス状態が癌になり易いという話は、現時点では、「重要だが、あくまでも仮説的なストーリー」で、実際の人間においてはどれ程の意味があるかという点で不確かだと思います。最近読んだ書物で、セリエ教授自身が晩年に、自分の精神ストレスで心身がメロメロになったということを知って、私はショックを受けました。

 
 実際に 日常の臨床上において、急にショックになって危険な状態になった際には、アドレナリンを注射して人工的に超急性的に反ショック状態にさせる治療をするし、また副腎皮質ステロイドを投与して急性的ないし持続的な時間経過で反ショック状態や抵抗期を人工的に維持するという治療をしている、という解釈も出来ると思います。

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